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ネンドノカンド~佐藤オオキ著~の感想

デザイン,ペン画,レビュー,水彩,イラストレーター,デザイナー,挿絵

初めに


佐藤オオキさんのネンドノカンドを読みました。

2010〜2012年のコラム連載をまとめたものらしいのですが、長期間の執筆な分、最初と最後でかなり文章の雰囲気が変わります。

最初は思わずニヤニヤ笑ってしまうような雑談もありの作品がどう生まれたかの解説の文章でしたが、最後の方はかなり真面目なデザイン話が多いです。
だんだんとますます忙しくなっていくにつれて、佐藤さんの真面目さが全面に出てしまうような、読み手として個人的には雑談まじりのほうが好みかなと。
忙しくて、冗談を考える余裕がなくなってしまったんだろうなぁと、勝手に想像してしまったので…


本には佐藤さんの人柄も出ていて面白く、ガラスの胃腸の持ち主という所と平仮名の「な」の左部分が×になるクセに自分も!と共感しました。(小学生の時に先生に直されクセはなくなりました)



本の中で気になったところ


デザインを考える上で大事だなと思ったところと、自分の意見も言いたいと思ったところを一部抜粋していきます。


‪>〇〇デザイナーではなくただのデザイナー‬
‪>1種目に取り組んできたけど、世界は異種格闘技だった‬


これは肩書きの話をしている時なのですが、世界は肩書き関係なく作りたいもの作っている。だから肩書き関係ないと。

正直デザインってジャンルの専門性ももちろんあると思うのですが、いろいろなジャンルが密接に絡んでいる事が多くて、理解してないとできないし、いろいろ手を出したくならないのかなと思っていて、この文章読んでやっぱりそうだよなと。

自分はイラスト描きたいと始めましたけど、最近はロゴコンペ応募してみたり、web関連の仕事依頼されたり、これからも他ジャンルにどんどん挑戦していこうと思いました。
プロダクトもやりたい。




>「好きなデザイン」と「正しいデザイン」
>「このデザイン良いよね」「んー、俺はあまり好きじゃないなぁ」みたいな会話をよく聞きますが、これって議論がすり替えられちゃってるんですよね



デザイナーには2つのモノサシが大事という話の中での一文なんですが、ここは凄く共感しました。
個人的には、正しいデザインって商業的に成功しなくてはいけないデザインなのかなとも。
だから、「好きじゃないけど良いデザインだと思う」というのは、自分以外のニーズがある事を認めるという視点なのかなと思ったり。
必ずしも自分の好きが大多数ではないので、仕事として行う分、消費者に受け入れてもらうデザインじゃないといけないですし。

だから、好きなデザインと正しいデザインをどれだけイコールに出来るかがデザイナーの腕の見せ所なのだと思いますね、本当に。
その方が作った本人も幸福度あがりますしねー。




>デザイナーは与えられた条件の中でベストの回答を導くことはもちろん大切ですが、時にはその条件を少し変えることで全く新しい道筋を立てることも必要なんだと思う時があります。



これは調査と分析に絶対の自信があるからだろうなぁ。あと、内部だと分からなくて外部だからこそ出来る事あるという解釈。
クライアントが思っていた強みじゃなくて、クライアントも気づいていないこういう強みもあるじゃないですかの提案。

コンペでこれやったら真っ先に弾かれるやつやーって思いました。笑
潜在需要を満たしたいという似たような事は常に意識してますけれど、自分のランクとしては条件変えない程度じゃないとクライアントに切られそう 笑



本の感想として自分の考え


本の最初くらいで、いつか使えるかものデザインネタストックは結局使えないというネタの鮮度の話をしていたのですが、その通りだなと思う反面、毎回アイデア探し大変じゃないのかな、ある程度ロジックないと疲弊するぞと読み進めたらやっぱりアイデアの見つけ方が出るわ出るわ…

雑談の中に隠れていたりして、指南書みたいにこれはこう!と断言する感じではないものもあったり、意識していないとさらっと流してしまうヒントがすごく隠れていました。


デザイナーの仕事内容


その中で断言していた事柄の1つ
デザイナーの仕事は、「見る」が大半と言っていたのですが、自分がやっている中で本当にその通りだなと日々思います。

イラストは一度こういう絵を描くと決めたら、理想通りになるまでひたすら描き続けるので描いて描いて描きまくるという7:3から8:2の「描く」と「考える」の割合だと思うのですが、デザインはその逆で2:8から下手したら1:9くらいの割合で考えること(調査と分析〜情報の整理)が大半だと思うんですよね。

「考える」を「見る」という表現で違いはあれど、共感しました。
本当に実感していたので。

アイデアさえ浮かんでしまえば、デザインはほぼできたも同然で、すぐに作業は終わってしまう。

オリンピックのメダルデザインは構想1週間、作業半日なんて記事になっていましたが、割合としては、それが普通だと思います。

デザインされた結果だけ見て、「こんなん俺でもつくれる」とか言う人いますが、そうです。大概のデザインはそんなに難しい事はしていません。
あなたにもできます、"アイデアさえ浮かべばね"

だから、クライアントにはアイデアに価値を持ってもらわないとデザイナーは生きていけず、アイデアの盗用は罪深い事になるのですよね。



2012年当時の現状と警鐘


2012年の時点で日本のデザイン業界の現状とこれからに警鐘を鳴らしていました。

>日本企業は「目に見えないもの」にはお金を出さない

ブランディングの話の中で出ていた言葉ですが、目先の売り上げ、数字しか見ていなかった企業は現在低迷していますよね。

どことは言いませんが、割と大きな会社で…
〇〇会社と言ったらこの商品みたいなブランド価値を自ら手放したあの会社とかその会社とか…

はっ!?言いそう。

まあでも、2012年よりは現在の方がデザインの力が大きいという事に気づいている企業が多くなっているような。
有名アートディレクターが手がけたみたいなニュースをちょこちょこ目にしますし。

ただ、その結果が無残なものになるとブランディングなんて無意味とまたなってしまうのかなとも。
だから、トップで走っている方達には失敗しないでくださいよーと言いたくなるこれから参入したい弱小デザイナーなのです。



佐藤さんはあとがきで、「センセイ」なんて言われるデザイナーは時代遅れで、今のデザイナーはクライアントと二人三脚で数字を意識しなければならないと言っていましたけれど本当にその通りなんだと思います。

というか、情報とモノが溢れている時代でそんな横柄な態度とっていたら仕事なんてないでしょうね。デザインの良い悪いはあれどみんなやろうと思えばPCでモノは出来てしまいますし。

結果を出し続けるために、クライアントの課題を浮き彫りにし、その解決を提案する、デザイナーって割と地味な作業の方が多い。
でも、デザインで世の中に提供できる楽しい部分もあるんですよねー。


仕事の心構え


本の中でトラブルやミスに対する心構えに触れていました。
もうトラブルやミスすることは前提で仕事を進めたほうがいい。スムーズにいったらラッキーぐらいであれと。
これは会社員時代のマネージメントしていたときに思ったことと、ほぼ同じことを言っていて、僭越ながら多分いろいろあったんだろうなと同情にも似た感情を佐藤さんに抱いてしまいました。笑

あと部下にミスしていいよというスタンスも、マネージメントができる人なんだなぁと思ったりしました。
ミスに寛容じゃないと仕事に大胆さが失われて、面白いものもできない、ミスを怖がりまたミスをするという悪循環にも陥りやすいですし、デザイナーにはよくないことばかりですしね。

一流の人はミスをしてもミスに見せない、復元力、応用力があると説いていましたし、本当に納得することばかりです。



最後に

デザイナーの仕事内容が2012年当時で変化してきているという風に言っていました。
今のデザイナーに求められているのはいろんな所で言われていますが、より経営に関わる部分だと思っています。

デザイナーはデザインの知識はもちろんのこと、経営学、マーケティング、マネジメントまでトータルで知識が必要だなと実感しています。
デザインがダイレクトで消費者に反映されるような会社だったのもありますが、会社員の時にそう感じていたのでフリーだからとか会社員だからとかあまり関係なく、消費者にダイレクトで繋がってしまう今の時代の流れなのかもしれません。


本を読んだ後にyoutubeにアップされている日経のインタビューを見たのですが、2019年に佐藤さんの仕事はデザインを生み出す売り切りスタイルではなく、年契約で企業のブランディングに携わっていることが多くなっているそうで、理想的なクライアントとの関係を築かれていて、本当に仕事ができる方だなと思いました。